2024年11月 8日 (金)

真正な身分証明書を使ったなりすまし事件

(本日のココログ「ヤキソバオヤジのよしなしごと」より転載)

こんな実例がありました。

(実例1)

自社の運転資金に困ったAが甲銀行から借り入れをするために、同居している父親X所有の自宅土地建物を担保にすることをXに頼んだが、Xは承知しなかった。

そこでAは叔父(Xに容貌の似た実弟)X’に替玉になることを頼み、AがXに無断で持ち出した運転免許証と実印、印鑑カードを用いて担保権設定登記を行い、融資も実行されたが、書類が自宅に郵送されたため悪事が露見した。

(実例2)

Yは高齢で物忘れも激しくなり、身の回りのことも覚束なくなってきたため、友人Bに相談したところ、自宅を売却して施設に入居することを勧められた。

Bの紹介する不動産会社に売却を依頼し、登記を担当する司法書士と面談したところ、認知症で判断力が低下しているから後見人を立てないと売却できないと言われた。

そこでBはYに容貌の似たYの友人Zに事情を話し、替玉になってもらうことにし、登記は他の司法書士に依頼した。ZはYになりすまし、Yの運転免許証を提示して本人確認を行い、決済・登記も完了した。

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なぜ地面師に負けてしまうのか 2

(11月7日のココログ「ヤキソバオヤジのよしなしごと」より転載)

仮に一定の規制が行われたとすれば、地面師には勝てます。つまり、携帯電話購入時の本人確認同様、現在司法書士が行っている本人確認の際に必要とされる証明書をマイナンバーカードのICチップ読み取りに限定すれば、地面師(なりすまし+証明書偽造)に騙される危険度は著しく低下します。

この規制の実現可能性はともかく、これが実現したとしても不動産詐欺がなくなることはありません。詐欺を働くのは地面師だけではないからです。

例えば地面師よりはるかに件数の多いものに「契約詐欺(手付詐欺)」があります。これが行われる段階(売買交渉から契約締結まで)に司法書士が関わることは通常は殆どありませんから、司法書士の本人確認を厳格にしてもこの手の詐欺は防げません(弊社の場合は契約締結前から関わることも少なくはなく、その場合には全て事件・事故を防いでいますが、それができたのは本人確認の厳格化とは無関係です)。

なお、同じなりすましでも真正な身分証明書を使ったものについては身分証明書の制限は当然意味を持ちません。

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なぜ地面師に負けてしまうのか

(11月6日のココログ「ヤキソバオヤジのよしなしごと」より転載)

「地面師」は国語辞典にも掲載された、はっきりした定義のある言葉ですが、例のドラマ以来すっかりバズワード(曖昧な用語)化してしまっています。つまり、不動産取引の世界は得体の知れない恐ろしいところだというイメージです。

確かに地面師のような存在は不動産取引にとっては脅威であり、十分注意しなければなりませんが、正体不明のバケモノのように無闇に恐れる必要はありません。

弊社でも地面師などの「正しい恐れ方」を様々な媒体で発信し、また被害も防いで来ましたが、残念ながら今後もこの脅威は簡単にはなくならないと思います。

その要因は色々ありますが、徹底的な規制が行われていないことにも原因はあると思います。

例えば携帯電話購入時の本人確認は厳格化され、本人確認資料をマイナンバーカードのみとし、さらにICチップの読み取りを義務付けるという法改正も予定されていますが、不動産取引の世界ではそこまで徹底した規制は行われていません。

ただ、仮に規制されても特殊詐欺同様それだけでは不動産詐欺の被害はなくなりません。

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2024年10月 1日 (火)

司法書士が共犯者になる危険 その2

(今朝のFLC&S社内ブログ「あしもとのこと」より)

司法書士が共犯(共同正犯、幇助犯、教唆犯)になる場合としては、正犯から犯罪行為に基づく登記の依頼を受けた場合が最も典型的で、危険性も高いといえよう。普通の(自分から犯罪を犯そうなどと考えない)司法書士も気を付けなければならないところである。

不動産の売買そのものが犯罪である場合、あるいは犯罪に基づくものである場合、例えば今回のような強制執行妨害、詐欺・脅迫、偽装倒産(詐欺破産)のための売買、等であることを知って登記の手続きを行った場合には、単なる過失とはいえず、共犯(幇助)とされる可能性が高いと解される。

従ってそのような事情を知った場合依頼を断らなければならないが、時に依頼者自身にそれが犯罪行為であるという認識がない場合があるから、その場合にはその点を指摘して思いとどまらせることが必要となることもあるであろう。

これは、本日の「よしなしごと」にも書いた、贈与税回避目的の偽装売買のような違法行為でも同様であるし、共犯とされなくても過失を認定され損害賠償を求められる危険がある。

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2024年9月30日 (月)

司法書士が共犯者になる危険 その1

(今朝のFLC&S社内ブログ「あしもとのこと」より)

弊法人では不動産事故防止を司法書士の重要な職責と捉え、ノウハウを蓄積してきた。その一つに不動産事故の類型化があるが、今回問題になった強制執行妨害はそのうちの「犯罪系」「金銭トラブル系」に位置づけられる。

これまで「犯罪系」には主に地面師などの詐欺事案を想定していたが、今回の事件もここに分類される。この前段とも言える詐害行為全般や破産財団からの不動産の散逸(破産管財人によって否認される危険がある)なども同様な位置づけである。

これら犯罪・不法行為系の事故では、司法書士は片棒を担がされることがないように身を処しなければならない。

経験の長い司法書士であれば、差し押さえられそうなので、あるいは、会社が倒産しそうなので不動産を売って現金に変えたい、あるいは売ったことにして名義を変えておきたい、そこで所有権移転登記をお願いしたい、という相談を受けたことがあろう。

もちろん事情を聞いてしまった以上、そのまま委託を受ける訳にはいかない。司法書士法21条の正当事由に該当することが多いと解される。

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2024年9月27日 (金)

強制執行妨害の依頼を受けたら

(今朝のFLC&S社内ブログ「あしもとのこと」より)

日司連副会長が強制執行妨害罪(刑法第96条の2)容疑で逮捕されました。

強制執行とは、債務不履行に対し債権者が(裁判所の手続を経て)債務者所有の不動産を強制的に売却して売却代金から返済を受けることです。

不心得者はそれを免れるために不動産を他人に売却(したことに)して自分の所有物でなく(なったことに)することを画策します。

問題は買主や司法書士がその事情を知っていたかどうかです。

司法書士は、一般的に既に成立している売買契約に基づく所有権移転登記の依頼を受けます(弊社の場合は契約前にご相談頂くことも少なくありませんが)。売主の目的が強制執行を免れることにあるのか、さらに買主と共謀しているのか、当人達が隠していれば知り得ません。

特にそれを疑わせる事情がなければ登記をするだけで同罪に問われることはないでしょうが、さらに突っ込んで確認を(アドバイス)すべきかは微妙なところです。

ただ、本件では反社会的勢力が関わっていますので、それだけでアウトです。

破産(財団構成不動産)や民事(損害賠償請求)も注意。

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2024年9月20日 (金)

君子危うきに近寄らず その2

(今朝のFLC&S社内ブログ「福田龍介のよしなしごと」より)

確かに私達司法書士は地面師(の一味)の類に直接相対する可能性はあります。私にもやはりその経験(もちろん撃退)はあり、「不動産事故防止の教科書(仮案)」に事例として掲載していますし、講演等でも紹介してきました。

そんなことから、「ブーム」になると地面師の実体について聞かれることがあります。

しかし、私達の仕事は依頼者が地面師などの被害に遭わないようにすることであって、その実体を暴くことではありません。

もちろん私達も地面師の実体を知る必要はありますが、私達が知ろうとする「実体」とは、彼らがどんなことを考え、どんなことを仕掛けて来るかということだけであり、それ以上のことは不要です。彼らからの攻撃に備えるためにはそれだけで十分なのです。

ただこれは単に経験を積むだけでなく、推論による原理の構築が必要です。それが「不動産事故防止の教科書」であり、具体的な対策は「懸念事項(事故原因の存在を疑わせる事項)」の排除という方法を取ります。

それができない場合、取引を止めることも躊躇ってはなりません。

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君子危うきに近寄らず その1

(昨日のFLC&S社内ブログ「福田龍介のよしなしごと」より)

ドラマ「地面師たち」以降、講演依頼や取材依頼が増えています。このドラマを見て不安になったという人の話もよく聞きます。

不安を感じるのは「地面師」の正体がよくわからないということだと思います。騙されたのが著名な大企業で歴史もノウハウもあるハウスメーカーS社であったことはそれを増幅する要因に過ぎません。

人は、実体のよくわからないものに対しては不安を感じます。前回の「地面師ブーム」(S社の事件直後)の際も、取材依頼の中心(読者が興味を持つもの)は、地面師の正体を知りたい、出来れば直接取材したいというものでした。

また、ある司法書士の方は、不動産登記の経験が少ないままに独立したが、大型の不動産案件の依頼を受けることがあるため、ドラマを見て不安になったと仰っていました。これも同じ理屈でしょう。

そして不安を取り除くために、その正体を知りたがることになるのでしょう。

特にメディアは正体に近づく必要があります。読者や視聴者がその正体を暴くことを期待するからです。

しかし、私達司法書士は少し違います。

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司法書士が見た地面師ドラマ その2

(9月2日のFLC&S社内ブログ「福田龍介のよしなしごと」より)

「不動産事故防止の教科書(仮案)」では詐欺に限らず不動産事故に巻き込まれる要因を「客観的事故要因」と「主観的事故要因」の二つに分けています。本作品ではその双方が生々しく描かれます。

客観的事故要因は5つありますが、地面師の場合のそれは言うまでもなく権利主体性(本人性)です。それを偽る手口(替え玉や偽造)がありありと描写されます。

主観的事故要因は全ての不動産事故に共通するものです。教科書ではこれが事故を引き起こす最大の要因であるとしていますが、これはさらに「認識」と「意識」に分けられます。特に意識の部分、認知バイアス、正常性バイアスが重要な要因となりますが、本作品ではこの部分も人間ドラマとして克明に描かれています。

時に生じる依頼者との認識の隔たりを考える時、各々の立場に立って主観的事故要因を考察する必要性も教えてくれます。

このドラマは、教科書で学んだ大事故を疑似体験できる生きた教材として観ることも、なぜ事故が防止できなかったのか、反面教師として観ることもできると思います。

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2024年8月30日 (金)

司法書士が見た地面師ドラマ

ネットフリックスのドラマ「地面師たち」の評判が高いので久しぶりに投稿します(ネタバレご容赦を)。「よしなしごと」と同内容です。

司法書士の決済立ち合いの場面は極めてリアルに描かれていました。

二つの事件に関わった司法書士は、決済の場で本人確認のために行うべきことを正当に行いましたが、それでも替え玉を見破れず、代金全額を騙し取られます。

実は決済時以外にも事故防止のためにできることはあります。

司法書士が事故防止のために決済立ち合い以外で何を行わなければならないか、そして事故を防げなかった責任を問われるか否かは、取引の規模や経緯、そして依頼者との間でどのような委任契約が交わされていたか(どこまで期待されていたか)等によりますが、その点はこの作品では描かれていません。

ただ、描かれた情報を弊社の基準に照らし合わせる限りは十分な対策を取ったとは言えない可能性が高いと思います。

但し弊社の基準は一般より高いため、本作品の司法書士の場合必ずしも法的責任を問われるとは言えません。

基準の詳細については過去の投稿をご参照ください。

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